検証 (1) 光子と物質との相互作用,非干渉性散乱の散乱角度確率分布について
検証を行うにあたり、半価層が 1~8 mmAl となるX線スペクトルを Tucker の近似式を用いて算出した。
各半価層に対応するX線の設定条件,半価層から計算される実効エネルギーおよびX線スペクトルを下図に示す。
(半価層によっては、固有ろ過が実際的ではないものがあるが、検証を目的とした仮設のスペクトルである)
光子と物質との相互作用断面積について
スペクトル分布をもつX線束に対する物質の相互作用 k の断面積 (σk/ρ)sp は次式で計算できる。
物質を水としたときの、上式で計算した各X線束に対する 光電効果,干渉性散乱,非干渉性散乱の相互作用断面積
および実効エネルギー(単一エネルギー)で計算した相互作用断面積の比較を下図に示す。
光電効果,干渉性散乱の断面積はスペクトルをもつX線と実効エネルギーX線との間に差異が生じているが、
非干渉性散乱では両者にほとんど差異は見られない。
これは下図に示すように、診断領域X線のエネルギー範囲 (約15 ~ 150 keV) では、光電効果,干渉性散乱の断面積は
大きく変化するのに対し、非干渉性散乱の断面積の変化量は小さいためである。
空気,軟部組織,皮膚組織,骨組織に対する各相互作用断面積の比較を下図に示す。
水と同様、非干渉性散乱はほとんど同じであるが、光電効果、干渉性散乱の相互作用断面積には
スペクトル分布をもつX線と実効エネルギーX線とは有意な差異があり、スペクトル分布をもつX線を実効エネルギーという単一エネルギーX線に置き換えることはできない。
非干渉性散乱の散乱角度確率分布について
単一エネルギー光子束の非干渉性散乱の散乱角度確率分布は、下左図に微分断面積の計算式を
利用して計算することができる。下右図に 20~140 keV 光子束の散乱角度確率分布を示す。
スペクトル分布をもつX線束に対する非干渉性散乱の散乱角度確率分布は、下左図に示す微分断面積の計算式より
求めることができる。
下右図に、半価層3.0mmAl に対応するスペクトル分布をもつX線束、および単一(実効)エネルギー(33.47 keV) X線束の、水に対する散乱角度確率分布の比較を示す。
単一(実効)エネルギーX線とスペクトル分布をもつX線に対する非干渉性散乱の散乱角度確率分布は、散乱角度
60度以下では大きな差異は見られないが、60度以上になると有意な差が観察され、スペクトル分布をもつX線の
非干渉性散乱角度確率分布を、実効エネルギーX線で代用することはできないことがわかる。